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チャーチルのメモ

1940年、壊滅の危機に瀕した英国の宰相の座についたウィンズトン・チャーチルは、政府各部局の長に次のようなメモを送った。

われわれの職務を遂行するには大量の書類を読まねばならぬ。その書類のほとんどすべてが長すぎる。時間が無駄だし、要点を見つけるのに手間がかかる。

同僚諸兄とその部下の方々に、報告書をもっと短くするようにご配慮願いたい。
  1. 報告書は、要点をそれぞれ短い、歯切れのいいパラグラフにまとめて書け。
  2. 複雑な要因の分析にもとづく報告や、統計にもとづく報告では、要因の分析や統計は付録とせよ。
  3. 正式の報告書でなく見出しだけを並べたメモを用意し、必要に応じて口頭でおぎなったほうがいい場合が多い。
  4. 次のような言い方はやめよう:「次の諸点を心に留めておくことも重要である」、「・・・・・・を実行する可能性も考慮すべきである」。この種 のもってまわった言い廻しは埋草にすぎない。省くか、一語で言い切れ。
私のいうように書いた報告書は、一見、官庁用語をならべ立てた文書と比べて荒っぽいかもしれない。しかし、時間はうんと節約できるし、真の要点だけを簡潔 に述べる訓練は考えを明確にするにも役立つ。

「理科系の作文技術」 木下是雄 中公新書より

施しを集めた詩人の一言

フランスの詩人アンドレ・ブルトンがニューヨークに住んでいたとき、いつも通る街角に黒メガネの物乞いがいて、首に下げた札には、

私は目が見えません

と書いてありました。

彼の前には施し用のアルミのお椀が置いてあるのですが、通行人はみな素通り、お椀にコインはいつもほとんど入っていません。

ある日、ブルトンはその下げ札の言葉を変えてみたらどうか、と話しかけました。

物乞いは「旦那のご随意に」。

ブルトンは新しい言葉を書きました。

それからというもの、お椀にコインの雨が降りそそぎ、通行人たちは同情の言葉をかけていくようになりました。

物乞いにもコインの音や優しい声が聞こえます。

数日後、物乞いは「旦那、なんと書いてくださったのですか」。

下げ札にはこう書いてあったそうです。

春はまもなくやってきます。
でも、私はそれを見ることができません。

「名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方」鈴木康之より

ゲリラの道で避けるべき10個の落とし穴


『ゲリラ流 最強の仕事術~「収入」と「時間」が増える技術と習慣~』 ジェイ・C・レビンソン フォレスト出版より

落とし穴その1、「時間のわな」

ゲリラとして避けなければならないことがある。 すべての仕事を自分ですること、自尊心があなたの邪魔をすること、時間を使うことと無駄にすることの区別 をつけそこなうことだ。 もし、最初にたくさんの時間を使い過ぎていることがわかれば、後で変更が非常に難しいパターンを確立してしまうことになる。 習 慣は破るより作るほうがずっと簡単なのだ。

落とし穴その2、「大きいことの魅力」


収入の増加、拡張、従業員の増員、より大きなオフィスへの移転、一ビジネスパースンの活動から大企業に変わることなど。 これらは自由とバランスの大敵で ある。

落とし穴その3、「お金の泥沼」

「大金を稼ぐことにのみ駆り立てられている人は、人間関係をおろそかにしがちである。仕事から離れて恋に落ちたり、配偶者と座って話したり、子どもの質問 に答えたりする時間がない」(フォーチュン誌より)
すべての落とし穴の中で、お金の泥沼が一番深くて暗くて大きい。

落とし穴その4、「燃え尽きの障壁」

仕事に対する最初の意気込みを失って、わくわくする感じがなくなってしまったら、何か別のものを目指すべきである。自分がしていることを好きになればなる ほど、それを上手にできるようになるとはっきり証明している研究もある。 もし仕事に対する愛情を感じなくなれば、その関係は終わりにして、新しい関係を 始めることだ。

落とし穴その5、「人間性の支障」

ビジネスより人、ビジネスより家族、ビジネスより愛、ビジネスより自分が上位にある。 個人的な温かさ、ユーモアのセンスや他の人間を愛することを決して 忘れてはいけない。

落とし穴その6、「焦点合わせの失敗」

経営の詳細にあまりにものめり込み過ぎたり、ビジネスを広げるのではなくて、コンピューターの勉強をすることに時間を費やしてしまう。 意識的に変化を起 こそうと決定する場合以外は、自分の方向は変えてはいけない。

落とし穴その7、「完全主義の落とし穴」

自分の時間の半分を費やして磨けないものを磨いたり、必要ないことに没頭したり、達成できないことに専念したりしていることはないか?

落とし穴その8、「販売のわな」

販売のわなは、あなたに同じ物を何度も何度も売るように強いる。 これを避ける方法は、一回の手間で複数の販売をすることだ。 雑誌なら、一回分の号では なく定期購読で売る、一回だけのマッサージではなく、毎週のマッサージを一年分売る。 一回限りの販売が何年もの利益を生み出せるようにすることだ。 一 回限りの販売のわなに陥ってしまうと、努力の結果得られた利益を楽しむよりも販売に時間を費やすことになるだろう。

落とし穴その9、「余暇の魅力」


余暇の時間はすべて楽しいものと信じるような甘い考えを抱かないことだ。 余暇の時間に何をしようか十分考えておかないといけない。 余暇の時間自体は、 つまらないものになりうることを覚えておこう。

落とし穴その10、「引退の策略」

引退を計画するという間違いを犯してはいけない。仕事量を減らし、ペースを落とすように計画するのはよいが、完全にやめることを計画してはいけない。 自 然界では、引退するものなどない。



信じこまされていた10個のウソ


『ゲリラ流 最強の仕事術~「収入」と「時間」が増える技術と習慣~』 ジェイ・C・レビンソン フォレスト出版より

信じるのをやめるべき10個のウソ

ウソ① 「時は金なり」

時間はお金よりはるかに貴重なものだ。 お金が底をついても、稼げる方法はいくらでもあるが、時間がなくなれば取り返しがつかない。

ウソ② 「ビジネスを持つことは仕事中心になることだ」

仕事中毒は、計画の仕方がまずかった結果、そうなってしまっただけのことだ。ビジネスを持つ人が、ビジネスに支配されるようになってはいけない。

ウソ③ 「マーケティングには費用がかかる」

下手なマーケティングはお金がかかり、上手なマーケティングはお金がかからない。 時間とエネルギーと想像力を働かせて、スキルと熱意に満ちたお金のかか らないマーケティングを活用すべきである。

ウソ④ 「大企業は母親のお腹の中のごとく安泰だ」

大企業は子宮の中のように安定したものだったが、最近ではお墓のような大企業が多い。従業員は生ける屍のようで、献身的に働いているものの、まださらに労 力を搾り取られ、合併、スリム化、コスト削減、リストラ、倒産やらで、騒々しく文句を言うことになる。至急のように機能する企業が欲しければ、自分で立ち 上げることだ。

ウソ⑤ 「歳をとっているより若い方がよい」

歳をとるということは、ある能力と引き換えに別の能力を手に入れることである。身体的な力は失うが精神的な力を手に入れ、同じ過ちを二度繰り返さない、あ るいは一度たりとも犯さない能力を身につけることである。

ウソ⑥ 「職は必要だ」

あなたは仕事を必要としている。 これについては疑う余地はない。 しかし、自分以外の誰かのために標準的な9時から5時までの勤務をする必要があるかど うかは別問題である。 そういう仕事をするなら、高い代償を払うことを覚悟しなければならない。 仕事は、あなたが自由を楽しみ、自分の本質的な能力を発 見する手助けとならなくてはならない。雇用者に頼るのでなく、自分の仕事の組織は自分で設立するべきである。

ウソ⑦ 「天国は死後の生活にある」

天国はここにあり、しかも今ある。 天国がいつか別のときにどこか別のところにあるかのように思って毎日を暮らしているのなら、それは人生の意味を取り違 えている。

ウソ⑧ 「教育の目的は事実を教えることだ」

教育の本当の目的は、学習は好きになるように教えることである。 学ぶことが好きになればなるほど、一生を通してより見聞を広められるだろう。 絶えず学 習していれば、それは常にあなたの味方となるだろう。 ゲリラは、時代は常に変化するものであり、成長とは決して終わりのないプロセスであることを理解し ている。

ウソ⑨ 「引退はいいものだ」

引退は命取りになることもある。 とかく怠惰になりがちで、若くして死に至ることもある。 すっかり引退してしまうと、心、頭、魂や精神の生命システムを 停止することになる。 仕事量を減らすことは構わないし、思い切って減らしても結構だ。 しかし、全部なくしてしまってはいけない。

ウソ⑩ 「ものごとを適切に実行したいなら自分ですることだ」

「他の人にちゃんと任せられるようなことは自分でするべきではない」 自分がいなければ誰も適切に仕事ができないと考えるのは、あさはかであることが多 い。 こんな考え方をするのは、他の人を訓練したり提携したりする能力、すなわち新しい時代に必須のスキルがない証拠だ。



過去は前、未来は後ろ


私たちはふつう、過去は背後にあるもの、未来は前から近づいてくるものというイメージを抱いている。

ところが、アンデス高原に住むアイマラというネイティブアメリカンの考えはまったく逆だ。

過去はすでに見たものだから前にあるが、未来についてはまだ見たことがないから後ろにある。

未来は分からない。

だから先を思って心を煩わすのは時間の無駄だ。

彼らはこう考えている。

だから、バスも、ちっとも来ない友達も、半日でものんびりと待っている。

「もっと時間があったなら!―時間をとり戻す6つの方法」 シュテファン・クライン 岩波書店より

老カウボーイの"人差し指一本"の意味


映画「シティ・スリッカーズ」での、ビリー・クリスタル演じる休暇で西部に出かけた都会人と、ジャック・パランス演じる頑固な老カウボーイのやりとり。

パランス 年はいくつだ。38か。
クリスタル 39です。
パランス そうか。お前らは大体それぐらいの年になると西部にやって来る。
抱えている問題も同じだ。
年に50週間働いて、すっかりこんぐらかって、西部に2週間いれば、そいつが全部きれいにほどけると思ってるんだろう。
しかしそうはいかん。
(長い沈黙)
人生の秘密を知ってるか。
クリスタル いいえ、それは何ですか。
パランス (人差し指を突き出しながら)
これだ。
クリスタル あなたの指ですか。
パランス 一つだけ。
たった一つだけだ。
とことんそれにこだわること。
それ以外のことは無意味だ。
クリスタル なるほど。
で、その一つというのは何ですか。
パランス それを自分でみつけるのさ。



速読への素朴な疑問


フランスの思想家モンテスキューは、「法の精神」を完成させるために、実に20年もの歳月を費やした。

モンテスキューほどの第一級の知性の持ち主が、20年もかけて考えたことを、どうして私たちが、1時間や2時間の飛ばし読みで理解できるだろうか?ましてや、速読法で1分間に30ページというような猛スピードで目に焼き付けるなどして、分かると思うほうがおこがましい話だ。それは極上のボルドーをイッキ飲みするような、恥ずかしい、下品なことじゃないだろうか?

もちろん、書くほうが20年かけたからといって、20年かけて読まなければいけないということはない。1週間で読み終わったならば、それでも構わないだろう。しかし、私たちは、著者の20年に対して、やはり謙虚な気持ちを忘れるべきでない。

「法の精神」の20年は、さすがに長いが、一般に思想書や哲学書は、著者の長年の根気強い思考の産物である。人は、誰もがすぐに「おかしい」と気がつくようなことを、そんなにも長い時間、考え続けられないものだ。「おかしい」と感じるのは、読者として自分の理解力が足りないからではあるまいか?そう疑ってみて、ではどこが理解できていないのだろうと改めて本を読み返す。そうしてじっくりと時間をかけることで、本は初めて、こっそりとその秘密を明かし始めてくれることだろう。その秘密を知り得た知性だけが、やがては手間のかかったぶどう酒のような成熟を経験するはずである。

平野啓一郎 「本の読み方 スロー・リーディングの実践」 PHP新書より

飛び石 その2


オランダのある町がごみの問題に悩んでいた。

かつて清潔だったある区域が、人びとがくず入れを使わなくなったために、見苦しくなってしまったのだ。

タバコの吸い殻、ビールの空き缶、チョコレートの包み紙、新聞などのごみが通りに散らかっていた。

当然、清掃課は事態を憂慮して、街を清潔にする方法を考えた。

ひとつのアイデアは、ごみを散らかしたときの罰金を二倍にして、違反1件あたり25ギルダーから50ギルダーにすることだった。

実際に試してもみたが、ほとんど効果がなかった。

もうひとつの方法は、この地域を巡視するごみ捨て取締官の数を増やすことだった。

これもまた、似たりよったりの、つまり、「ごみを捨てる人を罰する」解決策で、効果はほとんど認められなかった。

あるとき、誰かがつぎのような質問をした。

「人びとがくず入れにごみを入れると、くず入れがその人たちにお金を払うとしたら、どうなる? 各くず入れに電子工学的な感知装置と、硬貨を払い戻す装置をつければいい。ごみをくず入れに入れた人には、10ギルダー払うことにしよう。」

このアイデアは、少なくとも、全員の思考にガツンと一撃を与えた。

「もしこうならば、どうだろう」と尋ねた人は、事態を「ごみを散らかす者は罰せよ」という問題から、「法に従う者に報いよ」という問題に変えたのである。

しかしながら、このアイデアには、ひとつ重大な欠点があった。

もし市当局がこのアイデアを実行すれば、破産はまぬがれない。

さいわい、このアイデアを聞いていた人たちは、それを実現性の面で評価しなかった。

むしろ、それを飛び石にして、自問した。

「ごみをくず入れに入れた人に報いるには、ほかにどんな方法があるだろうか?」

この質問は次の解決策を導き出した。

清掃課が開発した電子工学的なくず入れには、ごみが投げ込まれると、それを感知する装置がついていて、これがテープレコーダーを作動させ、笑い話を聞かせる。

つまり、笑い話をするくず入れというわけだ!

くず入れごとに話す笑い話はいろいろで(下手なだじゃれを言うものがあるかと思えば、とぼけた長話ををするものもあった)、たちまち評判を呼んだ。

笑い話は2週間ごとに変わった。

その結果、人びとはわざわざ立ち止まって、ごみをくず入れに入れるようになり、街は再び清潔になった。

ロジャー・フォン・イーク「頭にガツンと一撃」新潮社より)

飛び石 その1


飛び石とは、それ自体はあまりに突飛で現実的ではないが、別の独創的なアイデアの引き金になるような考えのことを言います。

ある大手の化学会社のエンジニアが、次のような質問をした。

「もし、家屋用のペンキに火薬を混ぜたら、どうなるだろう?」

まわりの人たちは呆気にとられたが、エンジニアは続けた。

ペンキは塗ってから3、4年たつとどうなるか、お気づきですか? 硬くなって、ひびだらけになり、はがすのに大変苦労する。もっといい落とし方があるはずだ。ペンキに火薬を混ぜれば、すぐにも家から吹き飛ばせる。

このエンジニアのアイデアは興味深かったが、ひとつ欠点があった。---あまり現実的とは言えなかった。

しかしながら、彼の話を聞いた人たちの行動は賞賛に値する。

彼のアイデアを実現性では評価しなかったのだが、現実的で独創的なアイデアに導く飛び石にしたのである。

彼らは考えた。

「古いペンキを落とす化学反応を起こすには、ほかにどんな方法があるだろう?」

この質問は彼らの思考に糸口をつけ、やがて、家庭用のペンキに添加物を混ぜるとうアイデアを導いた。

これらの添加物はそれだけでは作用しないが、ペンキが古くなってから、そのうえに、ほかの添加物を含む溶液を塗ると、この時点で、これら二組の添加物の間に反応が起こって、すぐにペンキが剥げる仕組みである。

ロジャー・フォン・イーク「頭にガツンと一撃」新潮社より)

「継続は力なり」の由来

普段、当たり前のように使われる「継続は力なり」という言葉は、論語や孟子のような中国の古典から来ていると思っている人が多いようです。 実はそんなに古い言葉ではなく、大正から昭和初期にかけて広島で活動した住岡夜晃という宗教家(浄土真宗の一派)の著作「讃嘆の詩〈上巻〉若人よ一道にあれ」にある次のような一節のうち「継続は力なり」の部分だけが広まっていったものというのが正しい由来です。

二、青年よ強くなれ
牛のごとく、象のごとく、強くなれ
真に強いとは、一道を生きぬくことである
性格の弱さ悲しむなかれ
性格の強さ必ずしも誇るに足らず
「念願は人格を決定す 継続は力なり
真の強さは正しい念願を貫くにある
怒って腕力をふるうがごときは弱者の至れるものである
悪友の誘惑によって堕落するがごときは弱者の標本である
青年よ強くなれ 大きくなれ




讃嘆の詩〈上巻〉若人よ一道にあれ
樹心社
発売日:2003-05
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ランキング:97609

「雨の夜の惨事」

「10月のある夜、激しい雨音を聞きながら、夜間当直についていた。真夜中近く、若い22、3くらいの日本女性が事務所に入ってくるところだった。ほっそりとした体はびしょぬれで、黒髪もべったりと頭にはりついていた。おじぎを繰り返しながら、私たちになにかしきりに訴えていた。どうやら、どこかへ連れていこうとしているらしい。(ジープに乗せて案内した場所では)蒸気機関車にひかれて『ヘルプミー』と言っている海兵隊員だった。踏切事故で海兵隊員10人が死んでしまったのだ。あの夜、私を事故現場まで連れて行った日本女性はそのまま姿を消した。彼女の名前も住所も知らない。一言のお礼さえ伝えられなかった」
(ジョー・オダネル「トランクの中の日本―米従軍カメラマンの非公式記録」より)

トランクの中の日本―米従軍カメラマンの非公式記録
小学館
Joe O’Donnell(原著)
発売日:1995-05
発送時期:在庫あり。
ランキング:59336
おすすめ度:4.5
おすすめ度3 印象深い作品
おすすめ度5 そこにいる人たち
おすすめ度5 戦後の日本、今の日本
おすすめ度5 一枚の写真から得られる情報の多さが気持ちいい。
おすすめ度5 「焼き場に立つ少年」この1枚の写真のためだけでもこの本を購入する価値があります。

「焼き場に立つ少年」

原爆が投下された長崎市の浦上川周辺の焼き場で、亡くなった弟を背負い、直立不動で火葬の順番を待っている少年の写真 「焼き場に10歳くらいの少年がやってきた。小さな体はやせ細り、ぼろぼろの服を着てはだしだった。少年の背中には2歳にもならない幼い男の子がくくりつけられていた。その子はまるで眠っているようで見たところ体のどこにも火傷の跡は見当たらない。少年は焼き場のふちまで進むとそこで立ち止まる。わき上がる熱風にも動じない。係員は背中の幼児を下ろし、足下の燃えさかる火の上に乗せた。(略)私は彼から目をそらすことができなかった。少年は気を付けの姿勢で、じっと前を見つづけた。私はカメラのファインダーを通して涙も出ないほどの悲しみに打ちひしがれた顔を見守った。私は彼の肩を抱いてやりたかった。しかし声をかけることができないまま、もう一度シャッターを切った。急に彼は回れ右をすると背筋をぴんと張り、まっすぐ前を見て歩み去った。」
(ジョー・オダネル「トランクの中の日本―米従軍カメラマンの非公式記録」より)

戦後、アメリカに帰ったオダネル氏は、手を尽くして写真の少年を探し続けましたが、とうとうその消息は分かりませんでした。

トランクの中の日本―米従軍カメラマンの非公式記録
小学館
Joe O’Donnell(原著)
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