オランダのある町がごみの問題に悩んでいた。
かつて清潔だったある区域が、人びとがくず入れを使わなくなったために、見苦しくなってしまったのだ。
タバコの吸い殻、ビールの空き缶、チョコレートの包み紙、新聞などのごみが通りに散らかっていた。
当然、清掃課は事態を憂慮して、街を清潔にする方法を考えた。
ひとつのアイデアは、ごみを散らかしたときの罰金を二倍にして、違反1件あたり25ギルダーから50ギルダーにすることだった。
実際に試してもみたが、ほとんど効果がなかった。
もうひとつの方法は、この地域を巡視するごみ捨て取締官の数を増やすことだった。
これもまた、似たりよったりの、つまり、「ごみを捨てる人を罰する」解決策で、効果はほとんど認められなかった。
あるとき、誰かがつぎのような質問をした。
「人びとがくず入れにごみを入れると、くず入れがその人たちにお金を払うとしたら、どうなる? 各くず入れに電子工学的な感知装置と、硬貨を払い戻す装置をつければいい。ごみをくず入れに入れた人には、10ギルダー払うことにしよう。」
このアイデアは、少なくとも、全員の思考にガツンと一撃を与えた。
「もしこうならば、どうだろう」と尋ねた人は、事態を「ごみを散らかす者は罰せよ」という問題から、「法に従う者に報いよ」という問題に変えたのである。
しかしながら、このアイデアには、ひとつ重大な欠点があった。
もし市当局がこのアイデアを実行すれば、破産はまぬがれない。
さいわい、このアイデアを聞いていた人たちは、それを実現性の面で評価しなかった。
むしろ、それを飛び石にして、自問した。
「ごみをくず入れに入れた人に報いるには、ほかにどんな方法があるだろうか?」
この質問は次の解決策を導き出した。
清掃課が開発した電子工学的なくず入れには、ごみが投げ込まれると、それを感知する装置がついていて、これがテープレコーダーを作動させ、笑い話を聞かせる。
つまり、笑い話をするくず入れというわけだ!
くず入れごとに話す笑い話はいろいろで(下手なだじゃれを言うものがあるかと思えば、とぼけた長話ををするものもあった)、たちまち評判を呼んだ。
笑い話は2週間ごとに変わった。
その結果、人びとはわざわざ立ち止まって、ごみをくず入れに入れるようになり、街は再び清潔になった。
(ロジャー・フォン・イーク「頭にガツンと一撃」新潮社より)
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